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1995年か96年ごろのもの。もはや若いだけですまされないなにかが。1000字以内? 秘密を入れなさいとじいちゃんがくれたのは、木製の鍵付き小箱だった。かなり古ぼけているけど全然痛んでいない箱。
何を入れよう?大好きなじいちゃんが『秘密』って言ったんだから、凄いものを入れなきゃいけない。とすると、誰にも見せたくない宝物かな?それならいっぱいある。例えば、河原で拾った綺麗な渦巻きが描いてある小石とか。でも、なんせ小箱だから、とっておきを一つぐらいしか入れられそうにない。
僕がうんうん悩んでいると、いきなり部屋の窓が開け放たれた。
「亮ちゃん、いる?」
「わ!奈央じゃないか。なんか用?」
「えへへへ。ね。これちょっと食べてみて」
驚いた拍子に開いた口に、素早く何かが押し込まれた。唇を柔らかなピンクの指が掠める。
「どう?」
「もぐもぐ。クッキー?」
「当たり!それね、あたしが作ったんだよ。材料を量るところからオーブンの時間を調節するところまで、全部初めて一人でやったの」
「ふうん」
冷たく聞こえるように、興味なんか全くないって見えるように、わざとそっけなく答える。でも、眼はクッキーが盛られたバスケットに、白い紙が敷かれているのをちゃんと確認していた。
「その紙くれたら、感想言ってやるよ」
「ペーパーナプキン?いいけど、何に使うの?」
「内緒」
ひったくるようにして紙を奪う。再び窓を閉めて今度はカーテンも引いて、外から伺えないようにする。がたがたと窓が揺れるのは、風のせいじゃなくって奈央が怒りにまかせて叩いてる音だ。
「ちょっと、隠れるなんて卑怯よ」
悪いなとは思うんだけど、今からやるのは誰にも見られちゃいけない儀式なんだよ。特に奈央には見られたくないんだ、だからもう少し待っててくれ。
間違っても破れたりしないように、ありったけの注意を払って紙の皺を取り、そっと机の上に置いた。いけそうだな。茶色のペンで一気に書き上げる。
『○○年○月○日、奈央が初めてクッキーを作った、その記念品』
箱の中にぽいっと放り込み、かちりと鍵を掛けて、ほい終了だよ。
これが僕の秘密だ。そうだな、僕が年をとって孫が出来て、そいつが今の僕と同じ年になったら、箱を開けてばらすのもいいかも。きっとそのときが来ても、僕は奈央の手作りクッキーをつまんだりしているんだろう。それってちょっと素敵だろ?奈央にはあとで伝えよう。
「クッキーのことなんだけど、もっと修行したほうがいいと思うよ?これから先、長いんだし」
僕たちは、たくさんの時間を一緒に過ごせるはずさ。煌めく秘密をあいだに挟んで。