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にげみち。   指先アクロバティック2題

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2005_03_17 .Thu
[物語]堆積物  
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個人的にはどっちも練りが甘いと思う。でもご評価くださった方々ありがとうございます。

 地下牢の囚人のたったひとつの楽しみは、明かりとりの窓から外へ向けて手を伸ばすことである。もちろん看守にはぜったいに内緒にしなければならないし、窓もだいぶん高いところにあるから、彼がそうできるのは真夜中のほんのひとときだが、頑丈な金属の格子枠をようやっとくぐって中指のはしを月輪にひたすと、決まってなにものかが彼の指先をついっと細く撫で上げてくる。あらゆることを心得ているらしい相手のやりくちは巧みで、けずれかけた指紋に沿ってほどこされた流麗は皮膚を泡立たせ、肉に波を打たせて、鈍い腱をもふるわせる。それが幻でない証拠に、元へ引いた指にはいつも柔らかな香りとほのかな甘みが残されている。疵を舐めるようにして舌を這わせると、色褪せた地上の歌が口にいっしゅんひろがった。だから彼は指を大事にする。頬を添わせて子守歌を口ずさみながらあやしてやる。できうるかぎり愛してやる。
 それを幾夜も繰り返し、刑期をつとめた囚人が腐臭の闇へと流されたある日、明かりとりの窓を守るように昼も夜もなく咲きこぼれていた小さな花も、きちんと命を終えていた。あとにのこされた露と蜜ともつかぬ一滴も、やがて世界に乾いていった。

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 あまりに人を狂わせるというので月魄を禁ずる法令がしかれてずいぶんたちますが、ぼんやりとした加減がよく似ているらしい爪の半月をしゃぶりすぎて小指を腐らす事件があとをたたず、近頃の外套屋が黒い手袋の片側だけを軒先にならべるようになったのは予防策としていちばん効果的なのがそれだからだそうです。

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