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にげみち。   うきうき

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2005_03_03 .Thu
[物語]前世紀  
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 風船のおじさんは危ない人だから、近付いては駄目です。目を三角にしてママが言う。
 嘘だ、となおきくんは思う。なおきくんは、おじさんの良いところをママに教えたくてしかたないけれど、ママはなおきくんのか細い声なんかに、ちっとも耳を貸そうとしない。
 なおきくんは悲しくなる。しかし、そういうときこそ、おじさんのところへ行かなきゃならないのだ。言いつけを破って、なおきくんは家を抜け出す。
 風船のおじさんとは、町の外れのあばら屋に住んでいる男の人のことだ。なおきくんの話を聞いたおじさんは、大変だったねじゃあ風船をあげると言って、秘密の機械を動かした。
 風船。雨模様だったなおきくんの顔は快晴に代わる。なおきくんはおじさんの風船が大好きだ。おじさんの風船は、どこのお店にも置いてないような、極上の色をしている。なおきくんは青色が好きだけど、どんな絵の具をどれだけ混ぜても作れそうにない、おじさんの風船の青が一等賞だと思っていた。
 でも、おじさんの風船が一番素敵になるのは、針でつついて割ってしまうときだ。風船が破裂すると、そのなかに詰まっていた「うきうき」がなおきくんを包む。
 「うきうき」は、人を幸せな気持ちにさせてくれる空気だ。うきうきになれるから、名前はうきうき、だ。うきうきをお腹いっぱい吸い込むと、起きていても夢を見られる。いつのまにかお菓子の家がすぐ側に建ってたり、空飛ぶ竜の背に乗ってたり、だから、なおきくんは悲しくなくなる。それどころか、やなこと全部消えてしまうくらい楽しいのに、ママがどうして駄目というのか、なおきくんには判らない。
 だけど、判らなくたってこのうきうきした気分は本物だから、もういいや。なおきくんが笑うと、おじさんも隣で一緒に笑った。

 月日は流れる。なおきくんは高校生になった。毎日忙しくて、風船のおじさんのところへ行くひまもない。そのくせ、うきうきに勝てるほど楽しいことはなくて、どちらかといえばいらいらすることばかりで、なおきくんは苦しかった。
 なおきくんは大きくなったけど、小さいなおきくんは心の隅っこに住んでいて、風船を恋しがって泣いていた。
 ある日、なおきくんは学校で授業を受けていた。ふとよそ見をすると、外に風船が浮かんでいるのが見えた。慌てて窓を開ける。それは確かに、あの一等賞の青色をしていた。

 風船が、ぱんっと、割れた。

1998/11/13。1000字小説。元ネタはあるのだが、みんな気付いてくれない。

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