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書いてていちばん恥ずかしかったのは自分です。1998/10/21、1000字小説。 ねぇ、貝殻に声を閉じこめられたら素敵だと思わない? 貝っていってもあさりとかの二枚貝じゃなく、巻き貝のはなしだよ。はじくとガラスみたいに澄んだ音がして、灯りに透かすと温かい光を含んで、色は花嫁さんのヴェールの白、そんな貝殻がいいね。大きさは両の掌ですっぽり包み込めるくらいがいいな。これくらいならいつでも持ち歩けるし、大きすぎると可愛くないもの。
実はあたしね、偶然にも今、条件にぴったりの貝殻を持っているんだ。見せてあげるね。うん、これは普通の貝殻だよ。振っても叩いても何も起きやしない。
ん? 声を吹き込めたらどうするかって? そうねえ、あたしだったらカードにでもしようかな。貝殻のグリーティングカードってお洒落よね。あ、もしかしてどんなのか分かりにくい? じゃあ、ちょっと想像してみて。
贈る人は巻き貝の口に向かって大切なメッセージを囁くの。これくらいの貝殻じゃあんまりたくさんの文章は入らないだろうから、本当に贈りたい言葉を悩みに悩んで選び出し、繊細な貝殻を壊さないよう、全神経を傾け呼吸のひとつ手前のような声で注入する。全部言い終わったら間髪おかずに栓をしなきゃ。せっかく練った言葉が少しでも逃げ出したら口惜しいものね。渡すときは何気なくさりげなくしてるのがいい、シンプルなリボンを巻いてみるのもかっこいいかもしれない。贈られた人は一体なんだろうと首を傾げながら、栓に指をかけ貝の口に耳を近づけて、こぼれる言葉を受け止めようとする。聞き逃したら大変だよお、だって一回こっきりしか再生できないんだよ。だから、大好きな音楽が演奏されるのを待つときみたいに、瞳を閉じて静寂のただなかに立ち微かな緊張を感じ。そして、いざ珠玉の言葉たちが流れはじめると、それらは聞き手の体を音叉に変えて震わせる。
ね、ね、浪漫でしょう?
ま、なんだかんだ言っても、やっぱりあたしはそんな貝殻を持ってないんだけどさ。これ、あたしの手のうえの巻き貝もやっぱり普通の貝殻で、耳を近づけても遠い海の記憶がさあさあこだまするだけ。だから、あたしは贈りたい言葉はその人に直接言うの。魔法のアイテムで演出したりしないで、自分の声でそれがどんなに照れくさくても自信を出して、ね? それが結局、心を伝えるには一番の方法なんだろね。
というわけで、役立たずの貝殻はしまっちゃいまして、告白本番とまいりましょうか。
あなたが好きです。