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しみじみと評判が悪かった。1998/10/28。1000字小説。「魔法はいりませんか?」
ある日通りを歩いていたら、背後から聞こえてきたのは辿々しい調子の、幼さが残るというよりは幼さそのものの声。振り返るとそこには、ぼくの腰にも届かない背の女の子がちょこんと立っていた。パステルブラウンの猫耳フードを深々と頭にはめているところが、いかにも魔法売りらしい。
「あの、いきなり話しかけたりしてごめんなさい」
最近の子供にしてはなかなか礼儀をわきまえている。一応話を聞くつもりにはなっていたけど、やはり展開がいまいち呑み込めないぼくの心情を察したのか、女の子はいきさつを語りはじめた。
「さっきから頑張っているんですけど、誰も買ってくれないんです。ひとつくらいは売ってみせないと、魔女失格になっちゃう」
魔女ごっことかそんな感じのお遊びなんだろな。大多数の大人がそうであるように、常識の充満した感想をぼくも抱いた。しかし頭のどこかで、もしも本当だったらと考えていたことを否定するつもりもない。どちらにせよ、ぼくはこの子を見捨てるつもりはなかった。数ある願いのなかで一番面白そうなやつを、試しに口にしてみる。
「未来のお嫁さんが見える魔法とかある?」
女の子は新品のランプみたいに顔を輝かせた。
「それなら三百円です」
おお、魔法にしては良心的な値段じゃないか。早速コインケースから百円玉を三枚取り出すと、彼女の小さな掌にしっかり握らせた。
魔法を実行したのは満月の晩だった。水を張った器に女の子がくれた魔法薬を一滴たらし、月に捧げる呪文を三回繰り返す。すると、水面に一人の女性が浮かび上がった。年の頃にして二十前後か、笑顔が愛らしい、しかしぼくの知らない女性だった。
魔法は本物だったんだ。それは確かに驚きだったが、ぼくには水面の女性のほうが重要だった。彼女はまさにぼくの理想を形にしたような外見をしていた。いつか彼女と出会い同じ道を進めるのだろうかと思うと、暖かな感情がぼくのなかに生まれた。
けど、どこかで見たことある気もする。そうだ、あの小さな魔女に少し似てるんだ。そう気付いたときには、風が水を揺らし魔法の映像は消えてしまった。
あの晩からぼくの前にはしょっちゅう小さな魔女の幻が現れる。ぼくが買ったのは、果たして本当に未来の伴侶が分かる魔法だったのか、それとも別の? ま、とりあえず、ぼくは今、もう一度魔女を探し出そうと思っている。その目的は自分自身にもいまいちよく分かっていないんだけれど。