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硝子張りの閉塞の立体。二人分のプライバシーを呑み込んであまりある体積、その内部、赤道の国を模したらしく、自然からは隔絶された緑の茂りが、見目よく、品よく、兵隊のお行儀で整列する。硝子で補整された明度は険をもって、どぎつく、魔炎の光彩で目を刺す。匂いは濃く、ぬたりとして咽せそうに、歯を食い縛れば奥に銅色の粘着質がからまってくるかもしれない。ありえない錯覚すらリアリティを帯びる、イエローページのメタ・フィクション。
そこは温室だ。
湿度も温度もずいぶん高い。呼吸もままならず、身じろぎすら上手くできず、くるくると玉の緒の数珠がめぐり、三半規管を弱らせる。魂は酩酊する。陶然すれすれの自由自在に身も心も投げだしたうくなるのを、胃液の味をした些少の気鬱がしがらみになり、変動をようやく堰き止める。
サトはいつもこの温室にこもりっきりで、なにかの作業をしている。詳細は知らない、聞かないほうがいいような気がして、けれどもまったく無視もできないで、けっきょくは私がこの温室を訪問することでようやく対面がかなう。私はこんなにもサトに会いたいのに、彼はまるで気にしないふうなのが、ひどくプライドに障って苛立たしい。
分かっては、いる。サトは私より、この温室が好きなのだろう、と。まるで楽園のようだ、と、ときどきうっとりしながらつぶやくのを聞いたことがある(私がそばにいることなど、紙のように、気にもとめない)。
「どうして」
「ぼーっとできるから」
茫とするのは本当だ。あてがわれた梗塞のなかで10分もおとなしくしていれば、薄闇でたった一つきりの灯りを見つめつづけるように、四肢から力が摩耗し、くずおれることへ恋心にも似た憧憬がわきあがり、やわらかな水平と質量のある温みがとてもなつかしい、睡魔とまごう精神感応。
――そんなところを楽園といっていいのだろうか?
「なにも考えないですむところを、楽園というんじゃない?」
サトは笑った。
たぶん笑ったのだと思う。薄い表情、よく光る瞳、赤い唇はほんのりとふくれて、回旋塔をおもわせる直立不動の姿勢、けれど足下の影は油に溶かしたように輪郭をくずし、スライム状にぐずりとわだかまる。
――耐えられない。
私が退出を告げると、サトは、うん、とだけ口重に答えた。私は部屋にかえってシャワーを浴び、その日は寝る、もう何をする気にもなれない。植物になりたかった。
これまた、2006年7月に書いたもの。ただし、途中で放り出してしまった。そのうち完成させたいとは思ってますが、どうなることやら。
克己するためにも、途中のままでとりあえずアップロード。