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サトのいるところは温室だからむろん植物はたくさんあるのだけど、ほとんどは熱帯や亜熱帯のそれだ。虫媒の用事に放された蝶や蜂が飛び交い、ちょいちょい金色の鱗粉をこぼす。古い映画のノイズめき、ちらちらして眼球がひりつく。
その日、私が尋ねると、サトはブリキの如雨露から水を差していた。また新しい植物が増えたようだ。サトは問い掛ければいちいち懇切丁寧に種別や名称を教えてくれるけど、こんな環境ではまったく記憶に残らないから、そのうち私も質問をやめた。
被子植物、単子葉、双子葉、羊歯植物、維管束……。分類も機能も了解している。
でも、ひとつだけ鮮やかに目蓋に描かれる名前がある。
ガジュマル。
Ficus microcarpa L.f.
「絞め殺しの木――ストランダー――だよ」
縊るのさ。サトは例のおそらくは笑みであろう、あやふやな面持ちでそう云った。
熱帯地方に分布する常緑高木。沖縄や近頃は観葉植物として愛でられることもあるが、野性では食虫とはまたちがった獰猛な性分を発揮することもある。
「『星の王子さま』では、バオバブは悪者だったね」
「よくおぼえてるね」
悪魔が手入れをしたともいわれる奇妙な形状の巨木は、星を壊す大魔王のようにいわれていた。この温室にはないけれど。
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「そんなに嫌いなのに、どうして日毎にここへ来るの?」
「嫌いってわけじゃないけれど」
不快なだけだ、どうしようもなく。しかしくたくたになるまで蒸されるのを堪忍する日々というのも、どこかきしんでいるかもしれない。
ためしに一日ぐらい行かないですませようと思った。サトにも会わず、温室へも入らず、一日を過ごす。だけど、他になにをすればいいか分からなかった。
半端にここまで書けている(というか、ここまでしか書いていない)。